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これからどうなる【雇用と自殺】雇用対策なくして自殺大国の汚名は返上できない

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失業率+非正規雇用者の割合+自殺率の推移(1985~2012)

失業率+非正規雇用者の割合+自殺率の推移(1985~2012)

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 2012年の自殺者数が、1997年以来15年ぶりに3万人を切った(2013年3月、警察庁発表)。自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は21.8人で、この5年間はおおむね減少傾向が続いている(2013年11月までの統計も、12年比でマイナス)。

 自殺の減少は喜ばしいが、その内訳をみると、深刻な課題を内包していることがわかる。自殺率が20人を超え続けたのは、完全失業率が4%台に跳ね上がった98年以降だ。03年までの5年間は、とり
わけ働き盛りの50歳代の自殺率の増加が目立った。中小企業経営者の自殺がたびたび報道されたのはこの時期だった。しかしその後、50歳代の自殺率は04年をピークに減少。そのいっぽうで、じわじわと増加を続けているのが40歳代以下の自殺なのである。20歳代では、97年に13.3人だった自殺率が、2012年には22.5人に、30歳代では17.2人から21.9人、40歳代では22.1人から26.1人と増えている。
全世代とも約3分の2を占めているのは男性である(70歳代以上を除く)。

 ちなみに、日本における20~39歳の死因の1位は自殺(内閣府資料)で、先進7カ国では、15~34歳の死因の1位が自殺というのは日本だけだ。“自殺大国”といわれるゆえんである。

 若年層の自殺率が減少しない背景に、非正規雇用者の割合と完全失業率の高止まりがある。日本の完全失業率は1960年代の高度成長期から75年まで1%台で推移し、米国が10%に達した80年代においても、ほぼ2%台を保っていた。90年代に入ると、こんどは右肩上がりに上昇し、01年には5%に達した。その後07年10月まで続く戦後最長(69カ月)の“いざなみ”景気の下で3%台まで落ちたものの、リーマン・ショック以降ふたたび上昇し、09年7月には統計開始(53年)以来最悪の5.7%となった。バブル経済の崩壊以降、約20年にわたるデフレ経済下の企業活動低迷の所産である。

 いっぽう、この完全失業率に比例するように伸びているのが、パート・アルバイト・派遣・契約・嘱託などの非正規雇用労働者の割合である。85年以降、ほぼ直線的に増え続け、2010年には、ほぼ3人に1人が非正規労働者となった。総務省の就業構造基本調査(13年7月発表)によると、12年の非正規労働者の総数は約2043万人で、前回調査の07年から153万人増加し、初めて2000万人を突破した。非正規労働はパート業務など女性が多いものの、男性、若年層、大企業の雇用者についても増加が確認された

 非正規雇用増加の背景にあるのは、派遣労働の規制緩和だ。日本では人材派遣を長らく禁じていたが、86年に労働者派遣法が施行され、通訳などの専門知識を要する13職種で派遣労働が解禁された。さらに96年の改正では、適用業種が研究開発などを含む26職種に拡大、99年には警備や医療などを除いて原則自由化され、04年には製造業への派遣労働も解禁された。こうした流れのなかで、92年に10%強だった20代前半の非正規雇用率は05年に43%に達するのである(青少年白書)。

 13年12月に発表された11月の有効求人倍率は、6年ぶりに1.00倍となり、景気回復を裏づけたが、増えたのは非正規雇用の求人で、正社員に限ればまだ0.63倍である。そのため一部の小売や建設部門では、非正規労働者の奪い合いが起きている。五輪関連など大型公共工事の入札で、このところ不成立が続いているのも、人手不足が大きな原因だ。景気が回復するにつれて非正規労働者が増え、逆に正社員との格差が固定化しつつあるというのが労働市場の現実なのである。

 非正規雇用の増加は、内定をとれなかった大学生の「就活自殺」を招く要因にもなっている。警察庁の発表によれば、就活自殺は6年前の3倍。自殺対策支援センターライフリンクの調査では、就活中の大学生の5人に1人が自殺を考えたという(「就活に関わる意識調査」2013年10月)。この調査で際立ったのは、就活生の正社員志向の強さだった。就活に失敗すれば、就業経験のない若者には不安定な非正規労働者の道しか残されていない。非正規雇用が増えると正社員志向が強まり、それが達成できなかったときの絶望感が深まるというのが、就活自殺増加のメカニズムである。自殺の実証的な研究で知られる東京大学の澤田康幸教授は、雇用状況と自殺の相関が顕著に見られる日本では、雇用対策こそ自殺を防ぐ大きなカギの一つだと主張している(『自殺のない社会へ』有斐閣)。

完全失業率の推移 統計局 労働力調査 http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm 労働力調査では、東日本大震災の影響により、岩手県、宮城県、福島県において調査実施が一時困難となった。2011年の数値は補完的に推計した値(2010年国勢調査基準)。

完全失業率の推移 統計局 労働力調査 http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm 労働力調査では、東日本大震災の影響により、岩手県、宮城県、福島県において調査実施が一時困難となった。2011年の数値は補完的に推計した値(2010年国勢調査基準)。

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非正規雇用の割合の推移 統計局 労働力調査 http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm 1998年までは2月のデータ、1999年から2001年までは2月と8月のデータ、2002年以降は1~3月平均、4~6月平均、7~9月平均、10~12月平均のデータ。2011年1~9月は推計。

非正規雇用の割合の推移 統計局 労働力調査 http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm 1998年までは2月のデータ、1999年から2001年までは2月と8月のデータ、2002年以降は1~3月平均、4~6月平均、7~9月平均、10~12月平均のデータ。2011年1~9月は推計。

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自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)の推移 内閣府 自殺対策白書 http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2013/html/index.html

自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)の推移 内閣府 自殺対策白書 http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2013/html/index.html

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