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集団的自衛権の行使は、自衛隊を米軍の“傭兵”にするだけで、東アジアの安定にはまったく寄与しない

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日米共同訓練 離島奪還訓練で、海上の輸送艦からヘリコプターで降り立ち、展開する陸上自衛隊員ら--米=2013年06月17日撮影(毎日新聞社)

日米共同訓練 離島奪還訓練で、海上の輸送艦からヘリコプターで降り立ち、展開する陸上自衛隊員ら--米=2013年06月17日撮影(毎日新聞社)

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日本防衛のためなら安保条約で十分な理由

 集団的自衛権の推進者が指摘する理由に次の2つがある。

(1)中国の軍事大国化が進み、海洋進出が活発になる。尖閣諸島の防衛を含め、米軍にますます依存しなければならない。

(2)日米同盟は日本の基軸である。日本は米国に一方的に守ってもらっているので、日本も軍事的貢献をしなければならない。

 この代表的見解は、小泉元首相が2004年6月27日のNHKの討論番組で話した論拠であり、彼は、「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時に、集団的自衛権を行使できないのはおかしい。憲法を改正して、日本が攻撃された場合には、米国と一緒に行動できるような形にすべきだ」と述べた(*1=脚注)。

 だが、日本防衛のためには、すでに日米安保条約がある。何も新たに集団的自衛権を設ける必要はないのだ。

 日米安保条約の第五条では「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定されている。

 しばしば、「米国が一方的に日本を守るだけであって、日本は何ら自国の防衛に貢献していない」という議論があるが、これは正しくない。「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時には、日本は行動をとること」が条約上の義務になっているのである。

全世界に拡大される自衛隊の行動範囲

 ではなぜ、政府は集団的自衛権の行使を認めようとするのか。

 それは安保条約と比較すれば解る。安保条約には二つの縛りがある。一つは「日本国の施政の下にある領域」という縛りである。もう一つは「いずれか一方に対する武力攻撃があった時」と限定している点である。

 つまり、集団的自衛権の行使を認めることによって、対象となる地域を「日本国の施政の下にある領域」から「全世界」に拡大することができるのだ。

 2013年10月16日の時事通信は、次のように報じている。
「政府の『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』座長代理の北岡伸一国際大学長は、集団的自衛権の行使などを可能にした場合の自衛隊の活動範囲について、『地球の裏側で行動することは論理的にはあり得る』と述べた」

 なぜ自衛隊が地球の裏側に行く必要があるのか。それは米国に要請されるからである。

 では、どのような時に集団的自衛権が行使されるかを考えてみよう。

 安保条約では「いずれか一方に対する武力攻撃があった時」と限定している。しかし集団的自衛権では、「国際的安全保障環境の改善のため」という理由がよく指摘されるように、「相手の攻撃」の存在が必ずしも前提となっていないのである。

 この点、あたかも集団的自衛権は国連憲章で認められた権利であるかのような説明がなされるが、じつは国連憲章の理念とも異なる。国連憲章は第51条(*2)で「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と集団的自衛権は認めているが、あくまでも「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」に限定している。

日本にとって何一つプラスにならない

「まあ、問題はあろうが、集団的自衛権の行使を認めてもさしたる害はない。日米関係が重要だからいいんじゃないの」という声がある。

 だが、これは間違っている。

 認めれば、まず第一に、日本は「国際的安全保障環境の改善のために」米軍と一緒に行動、つまり軍事行動に参加することになる。それは先方がまだ軍事行動を行っていない場合を含むのだ。日米が軍事行動を起こせば、当然、先方は報復措置を考える。今だったら、中東やアフリカ諸国には日本にテロを行う理由はない。しかし、日本の方から攻撃を仕掛けるなら、これらの国や団体は、日本に関す
るテロを考えるだろう。いわば、起こるはずのなかったテロ行為をわざわざ呼び込む行動になるのだ。

 第二は対北朝鮮である。

 集団的自衛権の行使容認では、「同盟国を攻撃する弾道ミサイルをMDシステム(*3)で撃破する」ことが想定されている。北朝鮮のミサイルが米国に飛んで行く時、約1000キロメートル上空を飛ぶが、
日本に配備される迎撃用ミサイルの射程距離はせいぜい数十キロ、可能であったとしても数百キロで、北朝鮮の弾道ミサイルには届きだにしない。ではどうするか。北朝鮮が撃つ前に攻撃するしかない。

 米国にとっては、自国に向かってくるミサイルを日本が撃墜してくれるのでプラス。

 北朝鮮は撃たれれば当然、それに見合う報復をする。日本に到達するミサイル、ノドンを200から300発配備しているので、これを使う。北朝鮮にしてみれば、日本から攻撃されればそれに見合う反撃をするので、プラスマイナスなし、ということになる。

 では日本はどうか。ミサイルは米国行きなので、これを撃墜しても何らプラスにならない。しかし、北朝鮮から報復攻撃されるのでマイナスだけが残る結果となる。

 米国のためといいながら、日本の安全保障にマイナスの行動をとる。それを是とするくらい、日本の指導層は退廃しているのだ。

 集団的自衛権は米国の軍事目的のために、自衛隊を傭兵的に使うシステムである。しかも自分のお金を使ってである。世界史でも稀な傭兵の形式といってよい。

北朝鮮、中国からの激しい反発は必至

 日本が集団的自衛権の行使を認めた時、日本の周辺諸国からは、どのような反応が出るであろうか。

 いうまでもなく北朝鮮は激しく反応するであろう。

 北朝鮮にとって日本の集団的自衛権とは、「北朝鮮が米国を射程に収め得るミサイル発射を行う場合」、日本が北朝鮮の国土を直接攻撃しようとするものであるから、当然だ。

 中国の場合はどうであろうか。

 尖閣諸島問題を含む日本と中国との安全保障関係は、基本的に日米安保条約の範囲で処理される。したがって、中国の軍事戦略である大陸間弾道弾発射に日本が関与していくことはありえない。しかし日本政府は「いまなぜ集団的自衛権が必要か」という説明を行うのに、中国の軍事力強化を口実として使っている。さらに、日米安保条約の「極東」の域外である南シナ海における日米軍事行動を活発化することに、集団的自衛権が利用される可能性が高い。もし日本で集団自衛権の行使容認が成立すれば、軍部を中心に中国の激しい反発にさらされることが予想される。

【筆者が推薦する基本図書】

●豊下楢彦『集団的自衛権とは何か』(岩波新書、2007年)

●半田 滋『集団的自衛権のトリックと安倍改憲』(高文研、2013年)

●孫崎享『日米同盟の正体――迷走する安全保障』(講談社現代新書、2009年)

【編集部注】

*1 小泉元首相の発言

参議院選直前の党首討論会で、各党首が集団的自衛権についての見解を問われ、答えたもの。この時期に集団的自衛権が議論された背景には、アフガニスタンにおける対テロ作戦の後方支援や、イラク戦争後の復興支援業務など、自衛隊の任務が拡大していたことがある。その際、集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈が、金銭だけでない「汗をかく」国際貢献の障害になるとみなされるようになったのだ。小泉首相は、就任(01年4月)直前までは憲法解釈変更による集団的自衛権行使に前向きだったものの、その後「憲法解釈を変えることは考えていない」(03年2月の国会答弁)と軌道修正、「解釈の変更ではなく、正面から憲法改正を議論することで解決すべき」(04年2月の国会答弁)と述べるようになっていた。

*2 国連憲章51条

集団的自衛権とは、国連憲章51条において初めて明文化された、国際法においては比較的新しい概念である。第2次世界大戦の終結直前、米国とラテンアメリカ諸国は相互援助条約を締結しようとしていた。ところが同時期に制定へ向けて作業が進められていた国連憲章では、「地域的機関」による強制行動(=武力行使)には、安全保障理事会による承認が必要になり、さらに米ソ英仏中(当時は中華民国)の常任理事国には拒否権が認められることとなった。したがって、5常任理事国のうち1国でも反対すれば、共同防衛のための武力行使が行えなくなる。そこで米国は、自衛権について定めた51条に集団的自衛権の概念を盛り込み、「他国から武力攻撃を受けた場合、安保理が必要な措置をとるまでの間」は、安保理の許可なく共同防衛が可能となるようにしたのである。

*3 MDシステム

専守防衛を基本とする日本では、敵国が発射した弾道ミサイルは、人工衛星、イージス艦、地上配備レーダーなどで探知・追尾し、大気圏外に到達したとき(ミッドコース段階)、イージス艦のスタンダード
ミサイル(SM-3)が迎撃するという第一段階と、敵弾道ミサイルがそれでもこの迎撃をくぐり抜けて大気圏に再突入したとき(ターミナル段階)には、パトリオットミサイル(PAC-3)によって撃ち落とすという2段階の迎撃システムをとっている。米国では、これにさらにミッドコース段階で迎撃する地上配備型システム(GMD)と、ターミナル段階で撃ち落とす高高度地域防衛システム(THAAD)が構築されている。

*4 賠償の負担

損害賠償事件は、部品の納入でも実際に起きている。たとえば三菱重工は2009年からアメリカのサンオノフレ原発に4基の蒸気発生器を納入したが、その後、1基の配管から放射性物質を含む冷却水が漏れる事故があり、廃炉にすることが決まった。運営するサザン・カリフォルニア・エジソン社は三菱に対し、廃炉費用40億ドル以上の損害賠償を求めて、国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てた。三菱側は、契約上の賠償上限は1億3700万ドルと主張して争っている。