日本の実力

技術力は一流、ビジネス力は二流

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ロボットが全自動で溶接作業を行うトヨタの車体工場(2011年2月、宮城県のセントラル自動車=現・トヨタ自動車東日本)(毎日新聞社)

ロボットが全自動で溶接作業を行うトヨタの車体工場(2011年2月、宮城県のセントラル自動車=現・トヨタ自動車東日本)(毎日新聞社)

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証明された世界トップクラスの技術力

 天然資源を持たない日本にとって、「科学技術立国」は国是といってよい。では、その源泉となる技術力は、世界の中でそのくらいの水準にあるのか。

 国の科学技術の水準を表す指標の一つに、独創的な発明に関する特許権の出願件数がある。2014年3月、世界知的所有権機関(WIPO)が発表した「特許国際出願件数」(2013年)によると、国別では米国がトップで約5万7000件、2位が日本の約4万4000件。以下、中国、ドイツ、韓国という順である(表1)。日本は前年比0.6%増にとどまったが、米国は10.8%増、中国は15.6%増と勢いを見せた。個別企業別ではパナソニック(日本)が1位で、2位は中興通迅(中国)。ほかに日本企業ではシャープが6位、トヨタ自動車が8位に入った。

 政府や民間企業が投入する研究開発費の総支出や研究員数も、その国の科学技術の水準をはかる上で大切な指標となる。文部科学省が編纂した『科学技術要覧』(2013年版)によると、世界主要国の研究開発費の比較(2011年・IMF為替レート換算)では、日本は17兆4000億円で米国(33兆1000億円)に次いで2位を占め、中国、ドイツ、フランスがこれに続いている。研究者の総数は、米国、中国に次いで日本は3位。しかし、「人口1万人当たりの研究者数」では、日本が66.2人でトップに立っている。2位は韓国の58.0人で、以下、米国、英国、ドイツ、フランスの順である。

 日本の技術力は、スイスの国際経営開発研究所(IMD)や世界経済フォーラム(WGC)が発表する国際競争力のランキングでも高い評価を得ている。総合評価ではIMD(2013年)で21位、WGC(2013-2014)では9位と低い評価だが、コンピューターの使用状況、学位保持者、イノベーション能力といった科学技術に関する個別指標では、おおむね米国に次ぐ2位の評価を受けている。その品質におい
て世界的に信頼性の高い日本製品は、こうした前提条件のもとに生み出されているのである。

表1 特許の出願数ランキング

表1 特許の出願数ランキング

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世界シェアを誇る日本の部品供給

 世界第一級といわれる製品には、日本企業が提供する部品がないと成り立たないものが少なくない。たとえば、世界で年間1億5000万台以上を売り上げるスマートフォン「iPhone5」は中国で組み立てられているが、1000点以上ある部品の約4割は、超小型・高性能で定評のある日本製電子部品で占められている。ちなみに、携帯電話に必須の部品とされるセラミックコンデンサーは、村田製作所をはじめTDK、太陽誘電など、日本企業が世界の80%のシェアを占めている。

 自動車部品では、たとえばバックミラーやドアミラーに組み込まれている小型モーターの90%はマブチモーターの製品だ。カーエアコンのコンプレッサーも、トヨタ系のデンソーや豊田自動織機、日産系のカルソニックカンセイ、独立系のサンデンほか日本のメーカーが70%超の世界シェアを有する。

 炭素繊維や高吸水性樹脂(SAP)などの新素材も、日本企業が大きくリードする分野だ。

 鉄に比べて強度は10倍、重量は4分の1という炭素繊維の生産量は、東レ、帝人、三菱レイヨンの3社で世界の7割を占める。その用途開発はまだ途上だが、航空機分野では、ボーイングの新しい中型機787に東レの炭素繊維複合素材が採用されたのをはじめ、2014年就航予定の欧州エアバス次世代中型機に、帝人の炭素繊維複合素材が供給されることが決まっている。

 炭素繊維材料の難点は、高コストと、曲げ加工に時間がかかることだが、機体の重量を飛躍的に軽くすることができるため、低燃費化の強力な武器になった。自動車でも、すでに炭素繊維を多用した高級スポーツ車「レクサスLFA」が発売されているが、今後、量産車への拡大を目指して、自動車メーカーと素材メーカーの連携による研究開発が進んでいる。

 紙おむつや生理用品の材料となる高吸水性樹脂(SAP)も、日本の技術優位が鮮明である。SAPは、純水で体積の1000倍、生理食塩水(尿など)では20~60倍も吸収できるという特性を持ち、紙おむつや生理用品の世界に大革命を起こした。SAPの世界生産量の25%は大阪に本社を置く日本触媒によるもので、SAPの材料となるアクリル酸も、同社が世界の15%を供給している。2012年9月、同社の主力工場である姫路事業所が爆発事故を起こして操業を停止したときは、世界の紙おむつ・生理用品メーカーをあわてさせた。紙おむつや生理用品は、一人当たりのGDPが2000~3000ドルを超えると需要が伸びるといわれ、経済成長を続け、人口が増大するアジア市場で有望視されている商品だ。

国内より世界に知られる中小企業

 ほかにも、内視鏡では世界シェア70%以上というオリンパス、魚群探知機とその技術を応用した船舶用レーダーで世界シェア40%以上をもつ吉野電機、医療用・食品用アミノ酸で世界シェア50%以上を持つ味の素、ブロッコリーの種で世界シェア50%以上の「サカタのタネ」、世界で45%以上のシェアを誇るファスナーメーカーYKK、青色LEDを開発し、高輝度LED分野で今や世界シェア23%以上という日亜化学工業、工場のベルトコンベアなどに使う産業用チェーンで世界シェア25%以上の椿本チエインなど、独自の技術で世界シェアトップを獲得した企業は枚挙にいとまがない。

 特筆すべき点は、そうした世界ナンバーワン企業が中小企業にも数多く存在することだ。実際、大手が手を出さないようなニッチ市場を切り拓き、世界シェアトップに立った「小さなグローバル企業」は、100社を超える。たとえば、「けっして緩まない」と米航空宇宙局(NASA)が認めたボルトナットを製造するハードロック工業は、その典型である。その製品は、国内では新幹線やスカイツリーに、海外では英国、ドイツ、中国、台湾の高速鉄道などで採用されている。

 一方、新幹線を含む車両製造、さらに鉄道の管理・運営、上下水道施設の整備・運営、海水の淡水化、水の浄化設備など、日本の技術に対する高評価は、インフラ整備にも及んでいる。福島第一原発事故後、安全神話が揺らいだ原発だが、日本の原発技術に対する信頼性は、いまなお高いものがあるのも事実で、今後、発展途上国を中心に、インフラ技術輸出が増えていくと予想されている。

エレクトロニクス分野の苦い経験

 ただ、技術で先行したからといって、世界の勝者になるとはかぎらない。そのことを、かつて日本が身をもって体験したのがエレクトロニクス分野だった。

 1997年まで世界シェアの80%超を占めていた液晶ディスプレーの生産能力シェアを、日本は10年の間に13%まで落とした。代わって台頭したのが台湾(約45%)と韓国(約38%)である。カーナビも1990年にパイオニアが世界で初めてGPSカーナビを発売、以後2004 年まで日本が世界シェア90%以上を誇っていた。しかし、そのわずか3年後には20%にまで凋落。現在はカーナビ自体が、グーグルの地図ソフトが組み込まれたスマートフォンに代替されようとしている。

 エレクトロニクス分野の巻き返しを狙って、政府が成長戦略の一つに位置づけたのが、2014年6月、試験放送が始まった高細密テレビ「4K」だ。「4K」は約800万画素と、現行のハイビジョン放送の「2K」(200万画素)に比べ4倍の解像度をもつ。この4Kテレビを世界に普及させれば、日本製の受像機や放送機器、映像ソフトが海外で売れる。さらに4Kは内視鏡や監視カメラ、美術館展示など幅広い分野に応用できるから、それらの集積が経済の底上げをもたらす、という胸算用である。

 家電メーカーや家電量販店も、次世代テレビの星として「4K」に期待をかけている。ソニーは、2014年度、大型テレビの4K比率を5割にまで高める予定で、シャープも大型テレビ販売の50%以上を4K対応品に切り替える。液晶テレビでは韓国や中国メーカーに追い抜かれた日本メーカーだが、4Kでは先行している。米国の調査会社NPDディスプレイサーチによると、2013年はソニーが販売シェア23%で1位、韓国のサムスン電子は12%で3位だった。

 しかし、日本企業の優位がいつまで保てるかはわからない。すでに欧米市場では2013年11月以降、価格攻勢を強めたサムスン電子がトップに立ち、ソニーを逆転した。4Kの試験放送も、韓国は日本より2カ月早く、4月からスタートさせている。NPDディスプレイサーチの見通しでは、4Kテレビの市場規模は2017年には2300万台に達するとされ、その5割強が中国市場だという。中国市場を制するには、技術や品質よりも価格面が大きく作用するのではないか、という懸念もぬぐいきれない。

技術で勝ってビジネスで敗れる

 技術で先行してもその優位を保ちきれないパターンを、総合研究開発機構(NIRA)の伊藤元重理事長が「技術で勝ってビジネスで負ける状況が続いている」(「NIRA政策レビュー」2010年7月号)と評したことがある。「ビジネスで負ける」理由によくあげられるのは、長く続いた円高や、重い企業の社会的負担(法人税、失業保険や社会保険などの企業負担)、割高な公共料金、生産性は低いのに間接部門の人件費が高い、といったビジネス環境である。

 しかし、東京理科大学の伊丹敬之教授は、それらの問題よりも「多くの企業が類似した開発や生産に分散して取り組んでいる日本の産業界の構造に問題がある」(『日本企業は何で食っていくのか』日本経済新聞社刊)と指摘している。2008年のリーマンショックで日本の大手エレクトロニクス企業が軒並み赤字に転落する中、韓国の財閥企業・サムスンの優位は揺るがなかった。日本は韓国に比べてドングリの背比べの企業が多いため、国内競争で体力を消耗し、国際競争に勝ち抜くだけの投資体力、グローバル展開の投資体力がなくなってしまう。事業統合を含む産業の再編成を大胆に行わなければ、日本は国際競争に勝てない、という指摘である。

追い上げを受けるロボット大国・日本

「技術で先行しビジネスで負ける」パターンは、日本のお家芸といわれるロボット開発の分野にも忍び寄っている。

 国際ロボット連盟(IFR)の統計「世界の産業用ロボットの稼働台数」最新版によると、2012年、世界では約123万5000台の産業用ロボットが稼動しているが、その25%は日本国内の工場だ(以下、北米16%、ドイツ13%、韓国11%と続く)。1995年までは60%が日本国内で稼動していたが、円高を背景に、メーカーが生産拠点を海外に移したことによって、年々その比率は低下している。ただ、世界で稼動する産業用ロボットの約70%は日本製(日本ロボット工業会)で、まだロボット大国・日本の地位は揺らいではいない。

 一方、産業用ではないロボットになると、少し事情が違う。かつて日本は、家庭用ロボットの開発でも世界をリードしてきた。1999年には、ソニーが世界初の愛玩用ロボットとしてイヌ型の「アイボ」を発売。2000年には二足歩行のヒト型ロボット「アイボ」を発表した。ホンダも、1997年にヒト型二足歩行ロボット「P3」を開発し、2000年にその後継のヒト型ロボット「アシモ」を発表した。ジャンプしたり、走ったりする「アシモ」の登場は、ロボットと人間が共存する時代の到来を印象づけた。以後、大手、ベンチャー、大学研究室を問わず、ロケット開発ブームが起き、2005年の愛知万国博では約100種類のロボットが出展された。

 だが、そこから日本のロボット開発は足踏み状態に陥る。ソニーは2006年にロボット事業から撤退、ホンダも「アシモ」の改良型を一般向けに発売するにはいたっていない。人間と共存するには安全性という高い壁を越えなければならなかったからである。

 もう一つ、よく指摘される日本企業の弱点に、「技術志向が強すぎて商品に落とし込む詰めが甘い」というのがある。表2はロボット開発にまつわる特許出願数のランキングだが、人の生活にかかわるサービスロボットの分野では、産業用ロボットのように圧倒的優位とはいえなくなっている(ちなみにパナソニックが1位なのは、家電製品に大量のロボット技術が導入されているため)。とりあえず技術を確立し、それをどんな製品や商品に落とし込むかは後で考える、という日本のロボット開発の方法論が大きく影響している。目的を鮮明にして開発する欧米のベンチャー企業との違いがそこにある。

 2002年、米国のアイロボット社は、地雷探査の技術を生かした円盤型掃除ロボット「ルンバ」を発売、累積販売台数は今日まで1000万台以上という世界的な大ヒット商品となった。2010年代に入ると、米国のリシンク・ロボティクス社が、製造現場の作業でも使える双腕の人工頭脳ロボット「バクスター」を発売した。

表2 ロボット関連特許出願数

表2 ロボット関連特許出願数

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「軍事」で経験を積む欧米のロボット

 ロボット開発において日本が追い上げを受けている背景には、軍事目的のロボット開発にかなり早い段階から取り組んでいた欧米との違いがある。米国は、ベトナム戦争の経験から人的被害を最小に食い止めるための、無人偵察機や地雷処理車、爆弾処理車、無人潜航艇などの遠隔操作式の無人兵器やロボット兵器の研究・開発を続けてきた。英国も、1980年代に爆弾を安全地帯まで運搬する遠隔操作式のロボットを開発、運用を開始していている。

 軍事ロボット開発の実力を思い知らされたのが、2011年3月の東日本大震災にともなう福島第一原発の事故現場だった。瓦礫が散乱し高濃度放射線物質が充満する原子炉建屋内に、最初に投入されたのは米国アイロボット社が無償提供した2台の多目的ロボット「パックボット」だった。日本製の災害救助ロボットも開発されていたが、遠隔操作で原発構内の瓦礫を乗り越えて走行するようには設計されていなかったことから、使用が断念された。「パックボット」は、同発電所2号機建屋の二重扉のハンドルをアームで回して入構し、放射線量や温度、湿度、酸素濃度などを測定した。すでにアフガニスタンやイラクなど世界の紛争地で地雷や爆弾処理などに3000台が投入された実績を持つ同ロボットにとって、事故原発構内の過酷作業も、多少の改造で可能だったのである。原発事故を想定外としてきた日本のロボット開発の問題点が浮き彫りになったといってよい。福島の原発事故現場にようやく国産ロボットが投入されたのは事故の3カ月後のことである。

「日本のベンチャーがグーグル傘下に」の衝撃

 2013年12月、世界的なIT大手、グーグルが、ロボットベンチャー企業8社を買収したことが判明した。そのなかには、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が主催したロボットコンテストに参加した日本のシャフト社も含まれていた。同社は、二人の東京大学助教が創設した東京大学発のベンチャー企業である。二人が製作した二足歩行ロボット「S-One」は、コンテストの課題となった瓦礫の災害現場での作業をらくらくとこなし、予選トップで通過した。その直後、シャフト社はホームページを閉鎖し、創業者の二人はぷっつり消息を絶った。じつは、グーグルと契約し、同社の指示でマスコミや経産省からの問い合わせをシャットアウトしていたのだった。その後、二人の創業者が姿を現したのは、2014年4月、オバマ米大統領が来日し、グーグル傘下のロボット企業の代表として面会したときだった。

 グーグルは買収したこれらのロボットベンチャーを、今後どんな戦略で動かそうとしているのか、詳細はまだ明らかではない。だが、グーグルは2011年に「クラウド・ロボティクス」を発表している。サイバー空間上の巨大な「頭脳」が、家庭や工場のロボットにつながり、必要な作業をさせるというイメージの構想だ。ものづくりの延長線上でロボットを考えてきた日本企業とはまったく別の発想といってよい。かつて、2000年代初頭に、ソニーの「ウォークマン」が、ウェブ上(iTunes Store)からソフトを購入することを前提とした「iPod」に敗れた記憶は生々しい。産業用ロボットのフロントランナーだった日本は、いま思わぬ方向から挑戦を受け、トップの座を脅かされているのである。

ロボットは成長戦略の柱になるか

 一方、医療用、介護用、災害対応、海底地形観測用など、多様な用途に応じた新しいロボット開発の波が国内に起きているのも事実だ。たとえば、2014年2月、九州工業大学の研究チームは、新タイプのミニロボット「自走式カプセル内視鏡」を発表した。これまでの「口から飲み込むカプセル型内視鏡」は、便と共に体外に出すのに10時間程度かかったが、ミニロボは1時間ですむ。無線でカプセルの電磁石を振動させ、移動させるという仕組みだ。途中で小型アームを出して生体組織を採取したり、必要な場所でふたを開けて薬剤を投与できるといった画期的な技術を備えている。

 このほか、名古屋工業大学は、脳腫瘍を除去する神経外科ロボットを試作した。また、エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東京大学、オリンパスの三者は、冠動脈のバイパス手術で直径2ミリと細い血管をつなぐ操作が可能な手術ロボットを開発。東京理科大学では、人間が身につけるとパワーがアップして30キロの荷物でも軽々と持ち上げることができるようになる「マッスルスーツ」を開発している。

 政府は新しい成長戦略の柱として、ロボット市場を製造分野(産業ロボット)で2倍、医療・介護など非製造分野で20倍に拡大するという目標を打ち出した。しかし、軍事ロボット開発の実績を持ち、民生用ロボットの開発にもめざましい展開を見せ始めている欧米のベンチャー企業は強敵だ。

 ロボットにかぎらず、多様な分野で高レベルの技術力をもちながら、それを製品化し事業展開に結びつける戦略性に欠けるため、最終的な果実を手にできないというパターンを繰り返してきた日本。「科学技術立国」を画餅にしないために必要なのは、技術力を生かすマネジメントの仕組みと基本戦略の再構築であるのは間違いない。