日本の実力

日本企業の国際競争力はどの程度か

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グローバル企業の成長性・収益性国際比較

グローバル企業の成長性・収益性国際比較

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多角化の後遺症に悩む日本企業

企業の国際競争力を知る指標

日本企業は世界的に見てどの程度の実力があるのか。まずは株式の時価総額で比較してみよう。英誌「フィナンシャル・タイムズ」が毎年発表している「フィナンシャル・タイムズ・グローバル500」のランキング(2015年版)によれば、100位以内にランクしているのは15位のトヨタ自動車(2389億ドル)と、93位の三菱東京UFJ銀行(878億ドル)のみ。首位アップル(7247億ドル)以下、ベスト100のうち約半数が米国の企業に占められている。

いっぽう、米誌「フォーチュン」が毎年発表する「フォーチュン・グローローバル500」は、企業の総収入をもとにした500社のランキング。2015年版では、トヨタ自動車が9位。1位は米国の流通企業ウォルマート・ストアーズで、2位から7位までは欧米と中国の石油関連企業が占める。トヨタのほかに100位以内にランクインした日本企業は、38位の日本郵政以下、本田技研工業、日産自動車、NTT、日立製作所、JXホールディングスの6社で、「フィナンシャル・タイムズ・グローバル500」同様、トヨタだけが突き抜けているのが現状だ。

では、企業が生み出すモノ(商品)やサービスの評価から日本企業の国際競争力を見るとどうなるか。指標の一つが市場占有率である。日本経済新聞は毎年、世界の「主要商品・サービスシェア調査」を実施しているが、今年発表された2014年の調査結果では、日本企業は主要50品目のうち9品目でシェアトップとなった。その内訳は、炭素繊維(東レ)、産業用ロボット(ファナック)、自動車(トヨタ自動車)、白色LED(日亜化学工業)、デジタルカメラ(キヤノン)、レンズ交換式カメラ(キヤノン)、マイコン(ルネサスエレクトロニクス)、CMOSイメージセンサー(ソニー)、ゲーム機器(ソニー・コンピュータエンタテインメント)。

国別では、米国が16品目でシェアトップを獲得し、EUは10品目、韓国は8品目、中国は6品目で首位に立っている。韓国企業の8品目は、スマートフォン、中小型液晶パネル、造船、リチウムイオン電池、半導体DRAM。中国企業の6品目は、洗濯機、冷蔵庫、パソコン、監視カメラ、たばこ、太陽電池だった。

成長分野である炭素繊維やCMOSイメージセンサー(スマホなどに使われる)、産業用ロボットはともかく、カメラやゲーム機器は市場自体が落ち込んでおり、シェアが高くても将来性には疑問符がつく。これらのデータが示しているのは、メイド・イン・ジャパンは高品質の素材や部品などの分野でなお存在感を示しているものの、年を追うごとに後発の韓国や中国の企業に追い抜かれる分野が多くなっている、という厳しい現実である。

成長性・収益性で劣る日本のグローバル企業

なぜ日本企業の国際競争力は鈍化したのか。図は、日本のグローバル企業の成長性、収益性を欧州系、米国系、アジア系企業とくらべたもの。日本企業の低さがわかるが、この傾向は、とくに事業を多角化している企業ほど顕著だ。売上高営業利益率が10%未満の低収益事業部門の割合は、日系の多角化企業で91%にも達し、米国系28%、欧州系66%、アジア系59%とくらべて高すぎる。

日本企業の抱える低成長・低収益構造について、「通商白書」(2015年版)が指摘しているのは多角化した企業の問題だ。1980年代までの量的拡大路線一筋の時代、日本の主要企業は事業プロセスの上流から下流に至るサプライチェーンのなかに数多くの子会社や系列会社をつくってきた。そうしたグループ企業の経営者は本社からの出向者が赴任し、垂直分業の系列構造が構築されていった。

バブル崩壊後は、当然、これらのグループ企業の経営も悪化した。ところが、不採算だからと下手に整理に着手すれば、不毛な人事抗争に発展しかねず、そのまま存続させてしまったというケースが少なくない。その結果、グループ企業全体の成長性、収益性に負荷がかかり、競争力低下を招いてしまったというわけだ。

そうした多角化企業を束ねるトップリーダーは、グループ全体の向かうべき道を明示し、競争優位を生かした選択と集中を断行すべきだが、調整型のリーダーを好む日本的企業風土のなかで、実際に改革の大鉈をふるうのは至難の業である。カルロス・ゴーンによる日産自動車の再生プランが成功したのは、しがらみに囚われない外国人社長だったからだ、と見る人も多い。

スマイルカーブに対応した事業再構築

日本企業が抱えるこのジレンマについて、「スマイルカーブ」という産業構造の形成に注目しているのは、東京大学大学院の伊藤元重教授だ。スマイルカーブとは、事業プロセスの上流(開発・部品製造)と下流(販売・流通)の両端は高い収益をあげているのに、中流部分(組み立て・製造)は競争が激しく差別化も難しいため収益が低いという状況をいう。上流から下流にかけての収益性を示すグラフが笑顔の口許の形になることから、スマイルカーブと呼ばれている。

典型的なのが繊維・アパレル分野で、上流に東レのような先端素材企業があり、下流にそうした素材を活用するユニクロのような企業があって、ともに高い利益を上げる一方、中流に位置する織布、縫製などの企業は利益を上げにくい構造になっている。

これと逆向きのカーブを描いていたのが、バブル崩壊前までの日本の産業構造だ。そこではマスマーケティングの下、中流のメーカー(製造・組立)が主導権をもつ垂直分業による大量生産、大量販売の仕組みのなかで、幅広い商品が消費者に供給されていた。

〈(1990年より前の)日本の産業構造は、中流部分に多くの企業がひしめき合って、いかに効率よく多くの商品を市場に投入するかを追求する、という特徴を強く持っていました。(中略)しかし困ったことに、外的な環境は、この20年間で大きく変化しています。グローバル化、技術革新、少子高齢化で縮小する国内市場、こうした波が一気に押し寄せて、日本のマーケットは、中流でのビジネスでは利益の上げられないスマイルカーブの形にシフトしてきました。にもかかわらず、日本の産業構造は依然として逆スマイルカーブのままで変化していません〉(伊藤元重『日本経済を「見通す」力』光文社新書)。

中流メーカーがグローバル競争に勝つためには、たとえば幅広く手がけている部品のなかでも強い競争力をもつ製品に資源を集中し、ニッチトップを目指すという選択肢があるが、どの企業でもそれができるとは限らない。結局のところ、中流では大規模な再編によって企業の数を絞る以外に生き残りの道はない、というのが伊藤氏の見方だ。

事業の再生を阻む過去の成功体験

大胆な選択と集中を断行したとしても、長期的に見なければ、それが成功かどうかはわからない。たとえばかつては成功事例とされたシャープの液晶パネルへの集中は、長期的に見れば失敗であったとされる。失敗の大きな要因の一つとなるのが「過去の成功体験」だと指摘するのは、東北大学大学院の柴田友厚教授である。

〈組織は一度成功した仕組みを一層強化させる方向に様々な意思決定をすすめてしまう自然な傾向を持つ。成功体験がもたらすそのような組織の慣性から逃れようとすると、組織内に強い反対が起こる。(中略)シャープもその力から逃れることができなかった〉(柴田友厚『イノベーションの法則性』中央経済社)

過去の成功体験が足かせとなるのを振り切り、一度は落ち込んだ競争力を回復した事例に、富士フイルムがある。

創業は1934年。写真フィルムの専門メーカーとしてスタートし、やがてカメラ機材、光学機器なども製造し、フィルム関連業界のトップ企業となった。2000年には写真関連事業が全社売上げの6割、利益では7割を占めるまでになっていた。ところが1990年後半から世界的なデジタル化の波が押し寄せ、写真の撮影・現像にフィルムレスの時代がやってきた。富士フイルムの主力、写真感光材料の売上げは、2003年をピークに年々10%くらいずつ減少していった。

この危機に経営陣が取り組んだのは、同社の強みであるフィルムの製造過程に存在する独自の技術蓄積を他の分野に応用して新製品を開発し、新しい主力事業に育て上げる成長戦略だった。こうして生まれてきた新製品が化粧品であり、医薬品だった。じつは化学の世界では、写真と薬、化粧品は近いところにあり、富士フイルムの技術者にとってそれらの開発に違和感がなかったことも大きかった。

2014年度の同社の売上げは2兆4926億円。内訳は、写真フィルム・デジタルカメラなどのイメージソリューション事業が14.5%、化粧品・医薬品などのインフォーメーションソリューション事業が38.2%、傘下の富士ゼロックスで手がけるプリンターなどのドキュメントソリューション事業が47.3%となっており、かつて写真関連事業だけで60%を占めていた時代とは大きく変わった。

「技術大国幻想」を捨てるべき

日本企業の競争力が鈍化した要因について、畑村洋太郎・東京大学名誉教授は、別の角度から、次のように指摘する。

〈経済成長著しい新興国は、日本以上に自分の頭で考えて努力してきたということです。一方その間、私たち日本人は、自らを「技術大国」と位置づけて、その上にずっとあぐらをかき続けてきたのではないか、そして、自分の頭で考えて努力するということを忘れていたのではないか〉(畑村洋太郎『技術大国幻想の終わり』講談社現代新書)

畑村氏によれば、日本企業は、あるときから消費者を無視した製品開発を行い、「過剰な機能」「過剰な品質」の製品を「過剰に生産」するようになった。その背景には「品質が良いものをつくれば必ず売れるはず」という誤った固定観念があった。この考え方は1980年代までは通用した。欧米に先進の成功モデルが存在し、それを手本にさらに安く品質の良いものをつくれば、欧米市場で確実に売れたからだという。

しかし、アジアなど新興諸国が経済成長を続けた結果、コストの安い生産拠点ではなく、新たな消費市場として浮上してきた現在は通用しない。これらの新興諸国は欧米とは価値観が違うからだ、というのが畑村氏の見立てである。

この隘路から抜け出すにはどうすべきか。畑村氏は、こう述べている。

〈いまの消費者が求めているのは、良い品質だけではありません。「適切な品質」「適切な価格」「デザイン」「必要な機能ノウ」「使いやすさ」「楽しさ」「サービス」といった要素です。ところが50年間も「品質」重視で続けてくると、硬直化した思考から脱却できなくなり、消費者の要求と徐々に乖離していったのでしょう。市場の変化から目を背けていた企業が、世界の市場で以前のような存在感を発揮できなくなるのは当然のことではないでしょうか〉(前掲書)。

老舗企業が多い日本

国際競争力を失った日本企業にも、明らかに世界にぬきんでている点がある。それは長寿企業が多いということだ。そもそも世界最古の企業とされるのは飛鳥時代の578年に創業された金剛組(建設業)である。

帝国データバンクが発表した「長寿企業の実態調査」2014年版によると、日本には創業100年以上の長寿企業が2万7335社あり、業種別には酒小売、呉服・服地小売、婦人・子供服小売などの小売業が最も多かった。業種を細分類で見るとで「清酒製造」がトップで、2位が貸事務所業、3位酒小売、4位呉服・服地小売、5位旅館・ホテル経営の順だった。年商規模別では1億円未満の中小企業が4割、1億~10億円の中堅企業が同じく4割を占め、両者で全体の8割を占めている。

2008年に韓国銀行が発表した調査報告書「日本企業の長寿要因および示唆点」によると、世界で創業200年以上になる企業は5586社(合計41カ国)あり、国別では日本企業が3146社と圧倒的に多く、オランダ222社、フランス196社がこれに続く。日本に長寿企業が集中する要因については、植民地化や長期にわたる内戦などで産業が壊滅的な状態に追い込まれることがなかったことが大きい。また、長寿企業には事業や化従業員を守るための家訓や商道徳がある。それらが反映された日本の長寿企業文化は、効率を重視するあまり自然環境や人々の幸福を蔑ろにしてしまうグローバル資本主義の暴走を止めることにつながる、というのが同報告書の分析である。

東京商工リサーチの調査によると、2016年に創業100周年を迎える企業は2162社。100年前の創業時は第一次世界大戦の「戦争景気」下にあり、製造業の創業が多かった。その後の100年には、関東大震災、第二次大戦、石油危機、バブル崩壊、近くは東日本大震災といった難局があり、当然ながら経営者の世代交代も何度か経験している。そのすべてを乗り越えてきた企業が2000社以上あったことになる。

これら長寿企業の存在は、日本企業の競争力の源泉の一つと考えることができる。歴史の風雪に耐えてきた長寿企業の経営哲学や経営手法には、折々の時代変化にどう対応すべきかについて学ぶべき点が多く、その経営モデルが身近に存在することの意義は大きい。